2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

幼い日の通学路は山の手をまっすぐに延びる青梅街道だった

幼い日の通学路は山の手をまっすぐに延びる青梅街道だった 【その道は「電車通り」と呼ばれていたのだが、都電 に乗った記憶はない。鍋屋横丁に近い自宅から杉並 区のミッション・スクールまで運転手付きの外車で 通っていたからである。専従のメイドが教室…

愛する猫に死なれた女と不幸を餌にして生きる小さな神獣

愛する猫に死なれた女と不幸を餌にして生きる小さな神獣 【こうして原稿を書いている間にも、七匹の猫 たちはいぎたなく寝こけている。こいつら何 を考えているのかと思えば、腹立たしくなる ことしばしばあるが、彼らのもたらしてくれ る安息は、いったいど…

子供の時分からともに暮らした小動物は枚挙にいとまない

子供の時分からともに暮らした小動物は枚挙にいとまない 【歴代の愛鳥も巣からこぼれ落ちた雛であった。 雀でもそのように出会い、そのように育てる と、いわゆる「手乗り」になる。ひとつの茶 碗で飯を食うほどの仲になる。しかしそもそ も野鳥であると思え…

わが家の十匹の猫はすべて血脈を持っている

わが家の十匹の猫はすべて血脈を持っている 【いじめられるわけではないのだが、モモはほか の猫たちを怖れていた。なにしろ、猫という生 き物をしらなかったのである。ひがな部屋の隅 にちぢこまって、少しでもほかの猫が、近寄ろ うものなら唸り声をあげ、…

娘は東北の大学に合格してさっさと家を出て行ってしまった

娘は東北の大学に合格してさっさと家を出て行ってしまった 【娘は父母と別れることはさして感慨がない様 子であったが、ともに育った十匹の猫たちに は未練がましく別れを告げていた。その姿を 見ながら、私はふと思い当たった。わが家は 昔から猫まみれであ…

次に猫だが、この必要性はまったく犬とは異なる

次に猫だが、この必要性はまったく犬とは異なる 【猫は環境さえ整っていれば、まったく手がかからな い。一匹でも二匹でも三匹でも、さほど飼主の手間 が変わらないが小説家の孤独感は飼猫の数の分だけ、 ちゃんと救われる。時として作家がたくさんの猫を 飼…

古今東西、小説家は動物好きと決まっているらしい

古今東西、小説家は動物好きと決まっているらしい 【犬を飼っていれば、日に一度、少なくとも三十 分かそこらの散歩をさせなければならず、これ は犬という動物の生理上、一日も欠かせるわけ にはいかないのである。つまり実際は小説家が 犬を連れて散歩をし…

「よおし、決まった。今日から俺が、お前のパパだ」

「よおし、決まった。今日から俺が、お前のパパだ」 【パンチという名のこ純白の雑種犬は、私に幸 運をもたらしてくれた。ほどなく原稿が売れ 始め、あれよあれよという間に何冊もの本が 出、新人賞までいただいた。かくて、私はそ の数年後、郊外の丘の上に…

根っからの動物好きだから「ペット」という言葉が嫌いである

根っからの動物好きだから「ペット」という言葉が嫌いである 【マンションから貰われてきたパンチ号は、しばらく の間おのれの運命がわからず、耳を垂れ、尻尾を巻 いてふるえていた。持参品である室内用の便器から 出ようとせず私を横目で睨みながら吠え続…

西郷隆盛は、しばしば一国を一家になぞらえる

西郷隆盛は、しばしば一国を一家になぞらえる 【私は十五の歳に家を捨ててしまった。父の 粗野な言動がともかくとしても、学問や芸 術にいっこう理解を示してくれぬ家庭が耐 え難かった。三つ齢上の兄も、私ほど先鋭 ではないにしろ、およそ似た行動をとった…

いくたびもの辛酸をなめるたびに私の志は堅くなっていった

いくたびもの辛酸をなめるたびに私の志は堅くなっていった 【志を捨てさえすれば楽な人生はいくらもあったはず だが、たとえ玉砕してでも筆一本で立とうと誓い続 けてきた。まさに「一家の遺事 人知るや否や」で ある。もし、父が私にいくらかでも美田を与え…