2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

無我夢中であったせいか、苦労の記憶はない

無我夢中であったせいか、苦労の記憶はない 【第四巻「春」の連載も『蒼穹の昴』の下巻を書 き下ろしている最中で、しかも、この時期は 『活動写真の女』を月刊誌に同時連載をしてお り、のちに『鉄道員(ぽっぽや)』や『月のし ずく』『見知らぬ妻へ』に所…

そういう道楽はたいがいにして、商売に身を入れなさい

そういう道楽はたいがいにして、商売に身を入れなさい 【ころはバブルさめやらぬ一九九二年、稼業の 婦人服販売も好景気で、いちおう社長の私は たいそう忙しかった。従業員や取引先はみな 口を揃えて、「そういう道楽はたいがいにし て、商売に身を入れなさ…

褒められることに慣れていないので、そのつどひどくとまどう

褒められることに慣れていないので、そのつどひどくとまどう 【柴田錬三郎賞は職業作家に与えられる賞である。 つまり、メジャーの中からさらに選抜された受 賞なのだから、現在の仕事ならず、未来に読者 に対しても責任を持つ作品を、この先は書かね ばなら…

私は今、京都のホテルでこの原稿を書いている

私は今、京都のホテルでこの原稿を書いている 【優雅な旅先執筆ではない。「たいへんお疲れ とは思いますが、チェックアウトタイムを十 二時まで延長しましたので、『青春と読書』 の原稿をお書き下さい」という編集者からの 命令である。左右と向かいの客室…

もし私が編集者になっていたらと――ふと考える

もし私が編集者になっていたらと――ふと考える 【早寝早起きは習慣なので、たぶん誰もいな い編集部に早々と出勤しセッセと掃除など をする。他人の机の上がちらかっていても 不快になるので迷惑にならぬ程度に考えな がらみんなの整理整頓をする。さてゲラで…

子供の時分から他人様に褒められたという記憶がない

子供の時分から他人様に褒められたという記憶がない 【ことさら責任感が強いわけではないのだが、 頼まれれば、イヤと言えぬ江戸ッ子気性が災 いして、面倒くさい仕事ばかりをそうと知り つつも、引き受けるハメになる。よく言えば 百人芸、悪く言うなら器用…

誰にとっても、競馬場における初ランチであったはずだ

誰にとっても、競馬場における初ランチであったはずだ 【そのヒレカツカレーは有馬記念の残り物であっ たのだ。暮のグランプリ当日ならば大混雑の折 からあらかじめ盛り付けてあったヒレカツカレ ーをレンジで温めて出すくらいのことはしたか もしれない。レ…

ウェイトレスは二口三口食べかけた皿をカウンターに持ち帰った

ウェイトレスは二口三口食べかけた皿をカウンターに持ち帰った 【「お待たせしましたァ」 再びテーブルに置か れたヒレカツをひとめ見て、私はとっさに、お のれが、この際とるべき正しい対応について考 えねばならなかった。つまり、あろうことか、 厨房は…