お詫びとお知らせ

いつも、拙ブログにお訪ねいただきありがとうございます。 実は、昨日、家内が急病で都内某病院に入院しましたので、 しばらくブログを休ませていただきます。 ご不便をおかけして申しわけありません。 ここに謹んでお詫び申し上げます。

パリの風には薄荷が混じっていると、その町に住む友人が言った

パリの風には薄荷が混じっていると、その町に住む友人が言った 【優れた作品はまず、その世界の固有の風を第一行 から提示し、ドラマの始まるより先に読者を物語 の中にからめ取る。心を日常から乖離させてしま うのである。このあたりの素早さこそが、究極…

書斎の外でパイプをくわえるのは、もっぱら旅先である

書斎の外でパイプをくわえるのは、もっぱら旅先である 【ヨーロッパは喫煙に寛容である。というより、 死と病とをひどく怖れるアメリカ人が、ヒス テリックに禁煙を唱えているのであって、日 本は、その主張に忠実なのであろう。私は、 戦後生まれの日本人で…

煙草の味を覚えたのははたちのころ、陸上自衛官の時代である

煙草の味を覚えたのははたちのころ、陸上自衛官の時代である 【激しい運動ののち、呼吸が整ってからの一服とい うのはたまらない。緊張を伴う実弾射撃の前には、 誰もが立て続けに煙草をつける。消灯後、指定さ れた喫煙場所でバケツを囲んで喫う闇の中の一…

小説を書きながら、「たばこ」という単語の表記にはいつも迷う

小説を書きながら、「たばこ」という単語の表記にはいつも迷う 【「煙草」はごく一般的で、この表記に統一し ている作家は多いが現代の都会小説に二文字 のアテ字はちとうるさい。むしろ夜景を見下 ろす摩天楼で咥えるのなら「シガー」が好ま しい。だが、多…

小説家は原稿用紙とペンさえあれば、いつどこでも仕事ができる

小説家は原稿用紙とペンさえあれば、いつどこでも仕事ができる 【物語を考え、それを文章で表現する私の仕事は、 作業そのものはおそろしく単純だがそのぶんメ ンタルでもある。思考レベルをある一定の水準 に保っていなければ、面白いストリーは展開せ ず、…

天は、天業をなすべき者にしか、試練を与えない。

天は、天業をなすべき者にしか、試練を与えない。 【偉大な先覚者の銅像の裏に、ほんの小 さな墓石があった。 荘厳院浄空映画雄飛居士。 どのような小説家の人生よりも、私が たまさか資料の中でめぐり遭ったこの 人の生涯に心魅かれるのはなぜだろう】 浅田…

省三は監督と脚本とプロデュースとこなし、まさに超人

省三は監督と脚本とプロデュースとこなし、まさに超人 【彼から映画を奪えば、骨の髄すらも残ら なかった。天業にはつきもの数々の試練 ――企業との軋轢や、訴訟や貧困や火災 や、その他およそ男の生涯に考えつくあ りとあらゆる苦難にもめげず、彼は灼熱 の…

古い日本映画の世界に材を得た長編小説を連載中である

古い日本映画の世界に材を得た長編小説を連載中である 【資料を繙(ひもと)くうちに、マキノ省三という人物 に心を魅かれた。言わずと知れた「日本映画の父」で ある。この人の事績を知らずして、日本映画の歴史を 語ることはできない。マキノ省三は、明治…

作家としての基礎体力の充実をはかることを目的に据えた

作家としての基礎体力の充実をはかることを目的に据えた 【作家として生き残るためには、状況に応じた筋肉をつ けるこの四巻の鍛錬がどうしても必要だった。だから 毎年夏がくると想い出すのである。遥かな尾瀬とは縁 もゆかりもない、水芭蕉の造花がみっし…

無我夢中であったせいか、苦労の記憶はない

無我夢中であったせいか、苦労の記憶はない 【第四巻「春」の連載も『蒼穹の昴』の下巻を書 き下ろしている最中で、しかも、この時期は 『活動写真の女』を月刊誌に同時連載をしてお り、のちに『鉄道員(ぽっぽや)』や『月のし ずく』『見知らぬ妻へ』に所…

そういう道楽はたいがいにして、商売に身を入れなさい

そういう道楽はたいがいにして、商売に身を入れなさい 【ころはバブルさめやらぬ一九九二年、稼業の 婦人服販売も好景気で、いちおう社長の私は たいそう忙しかった。従業員や取引先はみな 口を揃えて、「そういう道楽はたいがいにし て、商売に身を入れなさ…

褒められることに慣れていないので、そのつどひどくとまどう

褒められることに慣れていないので、そのつどひどくとまどう 【柴田錬三郎賞は職業作家に与えられる賞である。 つまり、メジャーの中からさらに選抜された受 賞なのだから、現在の仕事ならず、未来に読者 に対しても責任を持つ作品を、この先は書かね ばなら…

私は今、京都のホテルでこの原稿を書いている

私は今、京都のホテルでこの原稿を書いている 【優雅な旅先執筆ではない。「たいへんお疲れ とは思いますが、チェックアウトタイムを十 二時まで延長しましたので、『青春と読書』 の原稿をお書き下さい」という編集者からの 命令である。左右と向かいの客室…

もし私が編集者になっていたらと――ふと考える

もし私が編集者になっていたらと――ふと考える 【早寝早起きは習慣なので、たぶん誰もいな い編集部に早々と出勤しセッセと掃除など をする。他人の机の上がちらかっていても 不快になるので迷惑にならぬ程度に考えな がらみんなの整理整頓をする。さてゲラで…

子供の時分から他人様に褒められたという記憶がない

子供の時分から他人様に褒められたという記憶がない 【ことさら責任感が強いわけではないのだが、 頼まれれば、イヤと言えぬ江戸ッ子気性が災 いして、面倒くさい仕事ばかりをそうと知り つつも、引き受けるハメになる。よく言えば 百人芸、悪く言うなら器用…

誰にとっても、競馬場における初ランチであったはずだ

誰にとっても、競馬場における初ランチであったはずだ 【そのヒレカツカレーは有馬記念の残り物であっ たのだ。暮のグランプリ当日ならば大混雑の折 からあらかじめ盛り付けてあったヒレカツカレ ーをレンジで温めて出すくらいのことはしたか もしれない。レ…

ウェイトレスは二口三口食べかけた皿をカウンターに持ち帰った

ウェイトレスは二口三口食べかけた皿をカウンターに持ち帰った 【「お待たせしましたァ」 再びテーブルに置か れたヒレカツをひとめ見て、私はとっさに、お のれが、この際とるべき正しい対応について考 えねばならなかった。つまり、あろうことか、 厨房は…

今年はこの「金杯」の当日にきわめて不愉快かつ不吉な経験を

今年はこの「金杯」の当日にきわめて不愉快かつ不吉な経験を 【正月五日といえば、誰しも当たり前のことだが 「駄メシ」を食いたい。つまり、ラーメンとか カレーライスとか牛丼とか、おせち料理の対極 にあるものが食いたくなる。中山競馬場のラー メンなら…

例年正月五日、「金杯」は中山、京都の東西両競馬場で開催

例年正月五日、「金杯」は中山、京都の東西両競馬場で開催 【このレースの馬券を買わないと、向こう一年、 ろくに競馬もできないような気がする。セコい 買い方をすると、一年中しみったれたバクチを 打つような気になる。そういう情けない年にし たくないの…

わが血統は父方母方ともにバクチ好きの遺伝子をもつ

わが血統は父方母方ともにバクチ好きの遺伝子をもつ 【一方で、わが血統はどこをどう見渡しても、文 学なるものとはてんで無縁なのである。一族郎 党、学芸の素養は毛ばかりもなく、ゆえに幼い ころから本好きであった私は、一種の異物とし て扱われていた。…

鳴尾記念でサンライズフラッグという馬が勝ち大穴をあけた

鳴尾記念でサンライズフラッグという馬が勝ち大穴をあけた 【私はあながち血統論者ではないのだが、さきの 遺伝子について思いをめぐらせていた折から、 この結果について、ひどく考えこんでしまった。 むろん、サンライズフラッグは弱い馬ではない。 しかし…

遺伝子なるものは「宿命」の科学的異名であろう

遺伝子なるものは「宿命」の科学的異名であろう 【わが父は稀代のバクチ好きであった。連夜の バクチ三昧であまり家に帰らず無理がたたっ て肝臓を病んだのちも昼間はもっぱら競輪場 通いを続け、結局は寒風吹きすさぶ京王閣の スタンドで風邪をこじらせ、そ…

二年間の自衛隊生活で得たものは計り知りない

二年間の自衛隊生活で得たものは計り知りない 【その環境を冷静に観察すると、さまざまの ことが手に取るようにわかった。プライバ シーのない不自由な生活ではあったが私は その中でわれわれの世代の作家が宿命的に 負わねばならない現実を知ることができた…

自衛隊入隊の決心を固めたときほどのチャンスはなかった

自衛隊入隊の決心を固めたときほどのチャンスはなかった 【三島由紀夫の死というジャンピング・ボード がなければ、もともと非才で学問嫌いな私は、 おそらく大学に行かず、行ったところでロッ クアウトをいいことに時を満然と過ごし、本 好きの無頼漢になっ…

思い起こせば二十七年前、卒然と自衛隊を志願した

思い起こせば二十七年前、卒然と自衛隊を志願した 【自衛隊に行くと言い出したとたんに友人たちは狂 気の沙汰だと罵り、親兄弟は嘆き悲しんだ。今も 耳に残る周囲の反応の大方は、「おまえはバカだ と思っていたが、そこまでバカだとは知らなかっ た」という…

自衛隊出身のパーワーが我ながらソラ怖ろしい

自衛隊出身のパーワーが我ながらソラ怖ろしい 【私がどういう生活をしているかというと、ホ ット・カーペットの上で毛布にくるまり、座 椅子で寝起きしている。昼夜を分かたず、力 尽きればリクライニングを倒して眠り、三十 分ないし二時間後には再びムック…

仕事を抱えすぎて書斎が戦場のような有様になってしまった

仕事を抱えすぎて書斎が戦場のような有様になってしまった 【作家として最も力が入るものは書き下ろしの小 説で、実はこちらも急を要するものだけで数本 も抱え込んでしまっている。まずいことに、私 は徒手空拳で原稿は書けない。実際にペンを執 っている時…

日本橋のさる大書店で直木賞受賞記念のサイン会を催した

日本橋のさる大書店で直木賞受賞記念のサイン会を催した 【受賞作『鉄道員(ぽっぽや)』も順調に版を重ね、サイ ン会はことのほか盛況であった。読者の行列もようや く終わりに近付いたころ、私の目の前に一枚の名刺を はさんだ『鉄道員』が差し出された。名…

十代から二十代の初めにかけて私にはKという親友がいた

十代から二十代の初めにかけて私にはKという親友がいた 【Kからバクチを奪えば、人間として存在する意味 は何もなかった。Kはけっして頭が良いというタ イプではない。日ごろの生活はむしろ愚鈍であっ た。教養のかけらもなく、スポーツ新聞以外の活 字を…