親子三代の姿を映す黒塗りの姫鏡台
岸恵子著『私の人生 ア・ラ・カルト』(13)
<yuka's fotolife 真剣勝負!>
親子三代の姿を映す黒塗りの姫鏡台
岸恵子著『私の人生 ア・ラ・カルト』(13) 第二部 「母と娘、それぞれの孤独」(2) “姫鏡台”(下) “姫鏡台”はまさに珠玉の短編でありま す。それも、岸恵子さんの人生に実際に 起きたドラマであります。 もし、小津安二郎がこの話を知っていた ら、きっと、映画にしたと思います。 ところで、どうして、岸恵子さんは、離 婚したのでしょうか。「あとがき」の一 節にこうあります。 「夫であったイヴ・シャピアという人物 に多大な影響を受けた。驚くほど深い知 識を、やさしさとユーモアで包(くる) むことの出来る、希有なひとだった。 人々が魅了させられる座談の名手でもあ った。彼のことを私はまだ書いていない。 これからも書けないだろうと思っている。 その彼と別れ、あっけないほどの早さで この世を去られ、私の脳細胞は、さなが ら地殻変動でも起こしたように揺らぎだ した……」 世の無情よ、魔のいたずらが起きました。 どんなに夫を愛していても、妻として許 しがたい男のどうしょうもない間違い。 そのことを知った岸さんは、何も持たず、 姫鏡台だけ車にのせ、十二歳の娘と、夫 の家を出たのでした。姫鏡台だけがないのである
“姫鏡台”(下) 階段の上がり框の会津だんす、藤で編ん だ寝椅子、熱帯樹の大きな葉っぱ。窓か ら身を乗りだすと、中庭の八重桜がちょ っと淋しく冬枯れている。 サロンの中ほどに、うすい麻地のカーテ ンが絞られていて、その向こうに住みび とのいなくなったベッドがあり、そのベ ッドルームを覗いて、私はまた、「あ、 そうなの」と独りごとを言った。 姫鏡台だけがないのである。それは、私 が母から贈られた黒い漆塗りの鏡台であ る。錆朱で花の絵が描かれている。 「姫鏡台じゃないのよ、これ、三面鏡よ」 と、母が言っていたっけ。 でも、私は三面鏡などという近代的で、 機能的な呼びかたは、明治生まれの母に は似合わないと思う。だから、私には姫 鏡台である。夫はハラハラと涙を流した
離婚が決まり、長年棲みなじんだ夫の家 を出るとき、私は何も持たず、この姫鏡 台だけ車にのせた。 車は小型で、幌(ほろ)をあげた天井から 鏡台の頭がとび出していた。 そのとび出した鏡台と、十二歳になろう としていた娘の姿をじっと見つめて、夫 はハラハラと涙を流した。 あのとき、娘はどんな顔をしていたのだ ろうか。どうしても思い出せない。 あらから十年。母の棲む居心地のいいア パルトマンから、ひとりで棲むことにな った自分だけの、ちっぽけな部屋へ引っ 越すとき、娘はどんな顔をしていたのだ ろう……。 娘のことをなにひとつ知らない、と私は 思った。私に対する愛情(もしあるとす れば)の在り処が分からない。 私の母も多分、娘である私を同じ思いで ことばなく見つめていることだろう。 ブリキ細工のようなチャチな小型車の幌 をあげて、その天井からまた頭をとび出 させた姫鏡台は、揺ら揺ら揺られて棲み 家をかえていったのにちがいない。 十年前のあのときのように……。「この姫鏡台、私にちょうだい」
あの日は、五月一日のすずらん祭りだっ た。雲ひとつない美しい日だった。 春といっても、パリは五月の雪の降るこ とさえあるのに、夏のうように太陽が煌 めき、バック・ミラーの中を遠去ってゆ く、一人立った夫のまわりに、かげろう が、燃えていた。 仮棲まいを転々として、サン・ルイ島へ きてから、鏡は娘の部屋に移っていった。 「この姫鏡台、私にちょうだい」 と娘が言い出し、その前で長い髪を梳く 彼女を見るのが、好きだった。 親子三代、それぞれに独りぽっちの姿を映 した、あの黒塗りの姫鏡台は、今、娘のち いさな部屋で、どんな風景を映しているの だろう。 希(ねが)わくば、その風景には、もうひ とつの顔がありますように。娘がたったひ とりで髪を梳く、さびしい風景ではありま せんように。(続く)(N親子三代の姿を映す黒塗りの姫鏡台
パリ・東京井戸端会議 (新潮文庫)
- 作者: 岸恵子,秦早穂子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1984/03
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
私の人生ア・ラ・カルト (単行本)
単行本: 270ページ 出版社: 講談社 (2005/01) 発売日: 2005/01 <目次> 第1部 私を女優にした眼
- 作者: 岸惠子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/01/26
- メディア: 単行本
- クリック: 50回
- この商品を含むブログ (28件) を見る
第2部 母と娘、それぞれの孤独
第3部 ドジな女の大騒動 第4部 「干渉の義務」 第5部 なつかしい人たち 第6部 「あの女、メトロのにおいがする」 第7部 時代をわたる風 第8部 大義と正義の罪 以上岸恵子連絡事務所
ݨqA±イヴ・シャンピ(Yves Ciampi, 1921年 - 1982年)
イヴ・シャンピ - Wikipedia≫平成万葉集≪
☆ヨーロッパ古城巡り☆ スペイン
Priaranza del Bierzois, El Bierzo, Castile and Leon, Spain.
Priaranza del Bierzo - Wikipedia Ref. アルハンブラの思い出
- アーティスト: (民謡),Heitor Villa Lobos,J.S.バッハ,Joaquin Rodrigo Vidre,イサーク・アルベニス,グラナドス,ソル,タレガ,ファリャ,Martinez Sierra Gregorio,サンチャゴ・ナヴァスクェス
- 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
- 発売日: 1990/07/21
- メディア: カセット
- この商品を含むブログ (1件) を見る
★米国ゴルフコース見参 フロリダ州 Orlando Metro Area Golf Courses★
Riverbend Golf Club :<世界のホテル案内> 米国 San Francisco
Ritz Carlton suite tour in San Francisco :