イスラエルはパレスチナを非難できるのか
岸恵子著『私の人生 ア・ラ・カルト』（１０）
＜yuka's fotolife 雪と子ども＞
イスラエルはパレスチナを非難できるのか
岸恵子著『私の人生 ア・ラ・カルト』（１０） 第八部「大義と正義の罪」（３） “かなしい自爆テロ” 以下、古い話が古くないのです。NHK衛星放送の草分けキャスターとして
“かなしい自爆テロ” 私が大勢の子供に囲まれていた。ヨチヨ チ歩きから六、七歳までのその子たちは、 裸足によれよれの襤褸をまとい、眼だけ がキラキラと光っていた。 ここは少し前、初めての女性自爆テロを 出したヨルダン川西岸のパレスチナ・キ ャンプの一つである。 NHK 衛星放送の草分けキャスターとして、 私は志願してそこにいた。 「イスラエル」という一時間半の生放送 を、紛争の焦点であるエレサレムの、ホ テル・ダヴィデのテラスから送るために。 イスラエルが建国四十年記念の喜びに沸 いていた一九八八年四月のことだった。 ホテルがその名を誇るダヴィデは、巨人 ゴリアテを智恵で倒した竪琴の名手であ った少年。のちにユダヤイスラエル王国 を設立した初代王。三千年も昔のことで ある。 それから二度の離散（ディアスポラ）を 余議なくされてユダヤは流浪の民となっ た。 迫害と他民族への隷属と、ヒトラーによ る六百万人もの集団虐殺（ホロコースト） があった。紛争の火種「土地なき民に、民なき土地を」
しかし、一九四十八年、艱難の末、パレ スチナの地に宿望のイスラエル独立国家 を打ち建てた時のスローガンは大問題だ った。 「土地なき民（ユダヤ)に、民なき土地 （パレスチナ）を」 この土地にはパレスチナ人という民がい たにもかかわらず、それを無視するかの ように、なしくずしにパレスチナの土地 にイスラエル人の入植地を増やしていっ た。 自らが背負った二千年に近い「土地なき 民」の悲惨をパレスチナ人に肩替わりさ せるかのように。以来、イスラエルとパ レスチナの紛争は果てしなく続いている。男の子「フェダイン（ゲリラ）になる」
その日、私を取り囲んだ少年たちの一人 に訊いた。 「大人になったら何になりたい？」 五、六歳の男の子は躊躇なく応えた。 「フェダイン（ゲリラ）になる」 そして持っていた棒切れを私に突きつけ た。 「これはバルーダ（機関銃）だ」 その私を丘の上からイスラエル兵が監視 していた。 「あの盗っ人たち、今にやって来る」 「僕らの家を毀し、国を奪った盗っ人だ よ」 と他の子が言った。イスラエル兵があっ という間に降りて来て、私たちは無許可 の撮影を詰問され、軍の詰め所に連行さ れた。 「分かって下さい。ここは危険な地区な ので、あなた方の安全を守っているの です。ぼくたちだってパレスチナ人を 一日中監視したり、時として子供たち に催涙弾を撃ち込むなんてほんとうに 辛いのです」 イスラエル兵の隊長が私に言った。イスラエルはパレスチナを非難できるのか
あの日から（二〇〇二年のこのとき）か ら十四年が経っている。 ラマラのパレスチナ自治政府の議長室に アラファト議長が監禁されて、すでに一 週間以上。テロに業を煮やしたシャロン 首相の暴走は危険極まりない。 もちろん、テロは悪い。 しかし、そのテロをミサイルや戦車など 巨大な武力を使って絶滅させることは絶 対に出来ない。 アラファト議長を救うための自爆テロを アラファト自身が阻止できないように、 イスラエル寄りのアメリカにシャロン首 相を説得する力はもちろんない。 和平を望む声はヨーロッパやイスラエル 国内からも起きているというのに。 紀元前から離散の憂目に二度も遭遇し、 一九四八年に独立を勝ち獲る迄のほぼ二 千年弱の間祖国というものを待たず「あ らゆる災禍に遭遇し、その都度不死鳥の ように蘇ったユダヤ人」（加害者の最大 の罪人ヒトラーの言葉）が、今、加害者 になってしまった。 そのイスラエルにパレスチナをテロよば わりする権利はあるのか、人間の歴史は あまりにも酷く矛盾に充ちて複雑である。 日本の若者がこれら複雑・過酷な偏見と 差別による人間の歴史に心を傾けること を私は祈る。 以上、二〇〇二年の時点で書かれた「か なしい自爆テロ」の惨状は、現在もより 悪化しながら進行中であります。ほんと うに人間の歴史はあまりにも悲しい。 いずれにしましても、岸恵子さんはただ の女優ではありませんね。凄い人だ。 （続く）(N171-25)パレスチナ問題 - Wikipedia
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第8部 大義と正義の罪
以上岸恵子連絡事務所
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