Ａでもあるが、Ｂでもある???
英語と日本人に関わる深い谷（４）『英語と運命（12）』
＜estelの記録帳 関西の景色 広目天＞
異文化に丸ごと衝突した時
「なぜ、日本の英語教育は長期間の教育 にもかかわらず、その成果があがってい ないのだろうか？。問題点は何だと思う か？」。 1990年のこと、ある大学で日本とアメリ カの学生との二日間の「異文化間コミュ ニケーション合宿」の場で、アメリカ側 教育関係者から、中津燎子さんが、集中 砲火を浴びたのが、上記の質問である。 中津さんは、とっさにこう答えた。 「教育の成果があがっているか、いない かは、大学生の場合、本人が判断すべき ものだ。 もし、日本の英語教育制度に学生たちが 不満足なら、本人たちが行動を起こすべ きで、他人が何か言う筋合いはでない。 いま、ここにいる日本の大学生たちに直 接質問してみてはどうか」。 日本側の答えはこうだ。 「僕たちは、日本の英語教育制度とその 結果に対して、非常に満足である、とい うわけではありません。だが、ものすご くみじめで不幸せ、ということでもあり ません」。 これを聞いたアメリカ人学生たちのボー ゼンとした表情は、生まれて初めて全く の異文化に丸ごと衝突した時の典型的な ものだった。 日本人の基本的な考え方に、「非常に満 足、というわけではないが、みじめで困 る、ということでもない。まあまあであ る」という言い方で表現されるものがよ くある。日本人では普通である。 中津さんの通訳時代の仕事の半分以上は、 日本人側のこの「Ａでもあるが、Ｂでも ある」という主張を、どちらかに纏め上 げることに費やされた。 現代の若者たちに、何か変化が起きてい ないだろうか。中津さんの気になるとこ ろである。「未来塾」が伝えようとしたこと
1999年、「未来塾」は閉鎖した。中津さ んは述懐する。 かって、塾の説明会や体験合宿をみて仰 天して、逃げ出した人たちも含めて、い ったい何名ぐらいの人々が訓練に関わり、 何名ぐらいが納得のゆく「成果」を得た のだろうか。 三十三年間で四千名ほどが関わり、その うちの大部分が逃げ出し、多少なりとも、 踏み止まって成果を得たと思われる人々 は八十名ぐらいになる。 いずれにせよ、それほど多くない。しか し、その八十名は中津さんの訓練から確 実に二種類の成果をつかんでいると思わ れる。 一つは、アルファベットをカタカナ音で なく、英語として把握出来ていること。 それ即、日・英語の音の違い（子音、多 重子音、短母音、リズムなど）が理解出 来ていて、発音訓練の指導が可能である こと。 もう一つは、日本語の英語のどちらにお いても、また、他の外国語であっても、 次の「コミュニケーションの基本点十ヵ 条」を、実践に移していて、他を指導出 来ることである。コミュニケーションの基本点十ヵ条
１．事実をみて、事実のままを言語化出来る。 ２．その事実を正確・公平に他へ伝達出来る。 ３．自分の考えを二分以内でまとめて伝達出来る ４．自分が言いたいことの優先順位が十秒以内で決められる。 ５．事実説明と、意見表明と、感想表現を区別出来る。 ６．他からの情報や話を、事実と意見と感想にわけて聞く習慣を持つ。 ７．自分が事実と知っている情報とそうでないものを整理しておく 習慣を持つ。 ８．他に煩わされないで自分自身が納得する自己像を持つ。 ９．冷静・公平な自己アピールが出来る。 10．自分と直接関係がなくても、社会的な事件やトラブルを整理し、 正確な情報として伝えることが出来る。 今日まで、お伝えしたのは、『英語と運 命−つきあい続けて日が暮れて』の九牛 の一毛に過ぎない。この本は英語論であ りながら、優れた日本人論でもある。英 語に役立つ Facts がいっぱい詰まって いるし、外国人から見た日本人像にはハ ッとさせられる。 昨今、グローバル化の世界にあって、各 国の外国語習得方向は、二カ国語取得が 大勢となっています。英語一カ国だけで ヒィヒィ言っているようでは、世界に伍 して行けないでしょう。 近年は、新基軸の英語学習法が、いくつ か開発されて喜ばしい限りですが、日本 人に最適な英語学習法のなお一層の研究 を期待します。（了） (N85-4)＜目次＞ プロローグ 好奇の虫 第１章 初期の音 第２章 九十平とウメ 第３章 不協和音ブルース三代記 第４章 ボルシチ語とみそ汁語 第５章 メシの種 第６章 朝鮮動乱と英語 第７章 秘訣は「WHY?」と「BECAUSE」 第８章 通訳の限界は皮膚下3糎か5糎 第９章 二人の神父と四人のボランティア 第10章 アメリカン・ドリーム 第11章 アメリカン「悪夢」 第12章 未来塾とヒグマ・ザ・モンスター 第13章 英語と日本人に関わる深い谷 第14章 無責任桃源郷 第15章 一トン爆弾と戦陣訓と東条英機 第16章 理想の英語学習プラン エピローグ 河内の里の最後のクラス
- 作者: 中津燎子
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