「自己紹介スピーチ」がヘタなのはなぜか

英語と日本人に関わる深い谷(2)(『英語と運命(10)』)

<estelの記録帳 関西の景色 京都駅>
「実用英会話」の目的が不明瞭
日本は昭和六十年代に入り、好景気が日 本を占領した。そして、あっという間に 大・中・小の企業や工場が次から次に海 外移動しはじめて、それと共に海外出向 の駐在員とその家族の数が増えた。 そして、海外留学希望者や、外資系企業 の社員たちも数多く未来塾に入ってくる ようになった。海外勤務を終えて入塾す る人もいたし、来月からの出国を控えて 時間繰りに苦労しながら来る人もいた。 そういう人々の大部分は、いわゆる「受 験英語」ではなく、「実用英会話」の習 得を目指している模様なのだが、不思議 なことに、そもそも「実用英会話」とは 一体どういう会話なのかという、具体的 なイメージを持っている人は少なかった のである。 詳しく聞いてみると、「従来の社交的英 会話」とは違って、「仕事」の話をする ための会話らしいが、それが何なのか、 はっきりしないのである。 「生産」なのか、「売買」なのか、また は、「金融」「経理」「投資」「株式」 等々、たくさんある中の何についての会 話なのか、あるいは討議なのかが、明白 でなかった。
自己紹介スピーチが苦手なわけ
そこで、未来塾では、何よりも「自分自 身」を他人に詳しく、正確に説明する力 をつけることを最優先事項に決めて「自 己紹介スピーチ」のレッスンを開始した。 実は、これが苦難の第一歩となってしま った。 そもそも、日本人にとって、アカの他人 に向かって自分のことであろうと、なか ろうと、「何かを」を説明するほど困難 なものは無いようである。 だいいち、分からないことがあっても、 不躾に「なぜですか?」と質問出来ない 人間関係が、長い間続いた日本語の世界 では、質問に答えて詳しく説明をする習 慣が育たなかった。 結果として、質問もヘタだし、説明に至 っては、なおさらヘタである。その上に、 自分だけが分かっているという、独り善 がりの状態が加わって、説明の役割を果 たせないのが現実のようだ。 しかも、こうした実情は戦前から戦中・ 戦後と、そのまま現在に至っていて、何 も変わっていないのではないだろうか。
日本の小学生って気の毒ねえ
中津燎子さんが、思わずカチンときたこ とがある。 日本のある地方の小学校とハワイの小学 校の間で、衛星放送を利用して国際交流 をはかるというイベントがあった。 その時、ハワイの小学五年生たちから山 のように問いかけられた質問に対して、 日本の小学五年生たちは、答えもはっき りせず、「何か質問を」と通訳から促さ れても黙っていた。 この映像を見ていた知人が、日本の小学 生は何も言えなくて残念だったと、他人 事のように、中津さんに話した。 中津さんは、こう言い返した。 「日本の小学生って気の毒ねえ! いつ もは、大人が許した範囲内の質問しか教 えられていないのに、いきなり、そうい うイベントの時だけ、ハワイの小学生と 同じようにバンバン質疑応答が出来るこ とを期待されるなんて、フェアじゃない と思うわ」 中津さんの剣幕に驚いた知人は苦笑と共 に応じた。 「だってね、テレビの画面に映っている いるのは同じような、かわいい顔して子 供たちなのに、ハワイの子って何かしゃ べりだしたら、その迫力たるやスゴイの よ。まるで大人の舞台俳優みたいな感じ。 びっくりしちゃたわ」 「それはそうでしょうよ。欧米式の教育 の基本ってのは、どれだけ自分の考えを 正確に人に伝えられるか、ということな のよ。だから、幼稚園の頃から仕込まれ ているわけよ」。     欧米の教育では、自分独自の考えをどう やって作り上げていくかということが、 他人に何かを伝える前の段階として、も っとも重要視されていることなのである。 だから自己紹介スピーチの訓練なのだが。 (続く) (N83-4)
英語と運命―つきあい続けて日が暮れて

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<目次> プロローグ 好奇の虫 第1章 初期の音 第2章 九十平とウメ 第3章 不協和音ブルース三代記 第4章 ボルシチ語とみそ汁語 第5章 メシの種 第6章 朝鮮動乱と英語 第7章 秘訣は「WHY?」と「BECAUSE」 第8章 通訳の限界は皮膚下3糎か5糎 第9章 二人の神父と四人のボランティア 第10章 アメリカン・ドリーム 第11章 アメリカン「悪夢」 第12章 未来塾とヒグマ・ザ・モンスター 第13章 英語と日本人に関わる深い谷 第14章 無責任桃源郷 第15章 一トン爆弾と戦陣訓と東条英機 第16章 理想の英語学習プラン エピローグ 河内の里の最後のクラス
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パソコンにアルファベットを叩くかな大和言葉を紡ぐというに
荘司幹子(60歳)埼玉県 平成万葉集
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