第13章 英語と日本人に関わる深い谷(1)

『英語と運命(9)』

<estelの記録帳 関西の景色 嵯峨の山々に陽が落ちて>
ステップとしての日本語スピーチ
いきなり、「英語と日本人に関わる深い 谷」と言われても、理解に苦しむかもし れない。 中津燎子さんが、「言葉の後ろにある文 化を理解することなしに、言葉を学ぶこ とはできない」という考えから『未来塾』 を創立し、試行錯誤の連続の中、血を吐 くような経験を味わうことになる。 日本語と英語の間にある山は巨大であり、 谷は恐ろしく深い。何から何まで違って いる。 「スピーチ文化」や「議論文化」もその 例の一つで、「英語スピーチ」の前に 「日本語スピーチ」のカリキュラムを組 んだが、その理由を、塾生たちにはよく 理解されていない事に苦慮する。 理由は一つだ。日・英語の間に広がる深 い谷をいきなり飛び超えて「英語」にぶ つかるよりは、アタマの準備体操として、 まず、「日本語」で分かりやすいスピー チを作ってみる。とにかく、慣れた日本 語で練習することだと思った。 しかし、問題はそれ以前にあり、中津さ んが見つめている深い谷間が、塾生たち には見えていない場合だと、中津さんの 意図が通ぜず、訓練はうわの空で、成果 はゼロになる。 「日本語スピーチは、英語スピーチに入 るための架け橋である」という意味が分 からずに、肝心の谷間が見えていなけれ ば架け橋の必要もなく、ピンとこない。
単純に声が小さくて通じないのだ
中津さんが、最初に気づいた日・英語の 深い谷間の現実はまだ占領下の事だった。 「日本人の英語はよく分らない」という アメリカ人が多かったが、その八十パー セントは、日本人の声が小さくて聞こえ ないという単純な理由からだった。 しかし、なぜか日本人は一方的に「文法 か、語彙の間違い」であると思い込み、 正解と思う他の言葉を探してくるが、相 変わらず声が小さい。 聞こえないのでアメリカ人は再度聞き返 す。それでもまだ声が小さいから聞こえ ない。最後には時間が足りずに、双方で あきらめる、といった状況が多かった。 アメリカで暮らしていた頃も、「聞き返 された時、即座に、声をもっと大きくし てくり返す」という、単純なコミュニケ ーション・スタイルは、外国人やネイテ ィブの区別なく誰もが見せる反応だった。
美意識の違いから生じる異文化摩擦
しかし、日本人の場合はそうならない事 が多かった。何故だろうと、観察を続け ているうちに、「声を大きくする」こと は日本語の世界では「はしたない」、ま たは「みっともない」と思われていて、 ある種のタブーとなっているのではない かと気がついた。 つまり、人間の心の奥にある「美意識」 のモンダイなのだ。こうなると、もう、 どうしようもない。美意識の違いほど、 異文化摩擦のすさまじさを露わにしてい るものはない。 相手に届かない声や、不透明な言葉によ る意思伝達はほとんど一顧だにされない 英語の世界と、相手にある種の雰囲気が 伝わればそれでいいのであって、言葉が 耳に入いろうが入るまいが、さほど大し たことではないという日本語の世界との 違いは、単なるコミュニケイション・ス タイルの問題にとどまらない。 およそ、「知的世界」のすべてにおいて、 大小、深浅、さまざまな谷間が連なって いると言っても大げさではないのである。 (続く) (N82-4)
英語と運命―つきあい続けて日が暮れて

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<目次> プロローグ 好奇の虫 第1章 初期の音 第2章 九十平とウメ 第3章 不協和音ブルース三代記 第4章 ボルシチ語とみそ汁語 第5章 メシの種 第6章 朝鮮動乱と英語 第7章 秘訣は「WHY?」と「BECAUSE」 第8章 通訳の限界は皮膚下3糎か5糎 第9章 二人の神父と四人のボランティア 第10章 アメリカン・ドリーム 第11章 アメリカン「悪夢」 第12章 未来塾とヒグマ・ザ・モンスター 第13章 英語と日本人に関わる深い谷 第14章 無責任桃源郷 第15章 一トン爆弾と戦陣訓と東条英機 第16章 理想の英語学習プラン エピローグ 河内の里の最後のクラス
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24時過ぎても昨日が終わらないパソコン相手に残業こなす
石井信男(54歳)福岡県 平成万葉集
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