藤原新也さんの最新刊

新也ワールドの決定版

estelの記録帳 沈む月


『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』

新聞の書籍広告で、藤原新也さんの新書
『コスモスの影にはいつも誰か隠れてい
る』を求めて本屋に駆けつけた。案の定、
そこには、新也ワールドが横溢していた。

「初夏の日の遅い午後、ピータ・サマン
サのピアノとレッド・ミッチェルのベー
スのデュオが奏でる”これからの愚かな
出来事”という静かな曲の流れる喫茶店
で、私はそれを彼に手渡した」。

本書に収められた十四編の最終章『夏の
かたみ』からの一節である。作中の喫茶
店だから、行ったこともないなのに、な
ぜか懐かしさを覚えてしまう場面である。

二十歳ばかり藤原さんが、壁紙の図案描
きのアルバイトしていたころ、ニコラス
・ド・スタールの絵のような壁紙の図案
を、依頼主の五十嵐氏に、作品を提出す
る場所である。

五十嵐氏は、壁紙の窓と空の絵柄に見と
れて、「この雲に映る二羽の鳥の影は、
誰と誰なのでしょうかね」と、小さな声
で言う。 

そこには、それぞれの雲に輪郭のぼやけ
た薄紫色の二羽の鳥の影が映っている。
藤原さんは答える。

「誰と想定して描いたわけではありませ
ん。だけどそれが影だったら誰にでもな
れるんじゃないですか。ニコラス・ド・
スタールと五十嵐さんの影でもいい。僕
と五十嵐さんの影でもいいし、五十嵐さ
んと奥さんの影であってもいいと思いま
す」

藤原さんが何気なく言ったこの言葉は、
終末のどんでん返しを暗示しています。

哀しみを繋ぐ帯

この世には、哀しみを繋ぐ目に見えない
帯があるように思います。その帯が同質
のシンパシーをもつの読者を繋いでいる
みたいです。

何を言いたいかというと、藤原新也さん
の書いたものに惹かれる読者は、共通の
帯で繋がってっているように思えるので
す。藤原さんの描いた二羽の鳥の影にダ
ブル人たちです。

藤原さんの著わす哀しみの帯は、動物た
ちに繋がっています。

第三話『海辺のトメさんクビワとゼロ』
には、怪我をしたカモメのゼロと、臭覚
だけで行動している老犬のクビワが登場
します。人を絶対に寄せ付けないゼロと
クビワと交感できる一人暮らしのトメば
あさん。みんな哀しの帯でしっかり結ば
れています。

でも、どうして、藤原さんの周りには、
類まれな優しをたたえた人たちが、こう
も、登場してくるのでしょうか。

<目次>

尾瀬に死す
コスモスの影にはいつも誰かが隠れている
海辺のトメさんとクビワとゼロ
ツインカップ
車窓の向こうの人生
あじさいのころ
カハタレバナ
さすらいのオルゴール
街の喧騒に埋もれて消えるくらい小さくてかけがえのないもの
トウキョウアリガト
世界でたったひとつの手帳に書かれていること
六十二本と二十一本のバラ
運命は風に吹かれる花びらのよう
夏のかたみ
(N59-4)


コスモスの影にはいつも誰かが隠れている

コスモスの影にはいつも誰かが隠れている




◇洒落ているなサイト◇

川井郁子公式サイト
http://www.ikukokawai.com/prof/prof-japanese.htm


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茶木登茂一(74歳)東京都
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