しがみつかない生き方

<勝間和代>を目指さない。その惹句が目に
飛び込んできて、香山リカ著『しがみつか
ない生き方ー「ふつうの幸せ」を手に入れ
る10のルール』 (幻冬舎新書)を読んだ。

いまの競争社会における成功者と、作家の
佐藤優氏をして、言わしめたアナリストの
勝間和代氏。すごい傑物が現れたものだと
羨望を感じ、この老躯さえも駆り立てる高
みがある。

しかし、待てよ、ないものねだりだなと感
じていた。

この本は、平凡で穏やかに暮らせる「ふつ
うの幸せ」こそが、最大の幸福だと教えて
くれる。雇用、医療、介護など社会のセー
フティネットは重要だけれど、自分の外に
求めるだけでは、人生はいつまでも満たさ
れない。
「ふつうの幸せ」を手に入れるには「私が
私が」という自慢競争をやめること。お金、
恋愛、子どもにしがみつかないこと。物事
の曖昧さ、ムダ、非効率を大いに楽しむこ
と。そして、他人の弱さを受け入れること。
脱ひとり勝ち時代の生き方のルールを精神
科医として提案している。
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病院という場で仕事をしていると、医者の
私も心の中で「なぜこの人がこんな不幸な
目にあわなければならのいか」と神に抗議
したくなるような人に、毎日のように出会
う。というより、「まあ、この人の場合、
病気になったのは自業自得か」と思えるよ
うなケースのほうが、ずっと少ないのが実
際のところだ。

こんな生活を二十五年近くも続けていると、
世の中の見方もちょっとかたよってくるの
が当然だと思う。私は、「がんばれば夢は
かなう」とか「向上心さえあればすべては
変わる」といったいわゆる”前向きなメッ
セージ”を聞くたびに、診察室で出会った
人たちの顔を思い出して、こう反論したく
なる。「あの人はずっとがんばっていたの
に、結局、病気になって長期入院すること
になり夢は潰えたじゃないか」「両親とも
自殺して、育ててくれた祖父が認知症にな
っている彼女が、どうやって向上心を出せ
ばよいのか」

努力しても、そもそもそうできない状況の
人がいる。あるいは、努力しても、すべて
の人が思った通りの結果にたどり着くわけ
ではない。これはとても素朴でシンプルな
事実であるはずなのに、まわりを見わたし
てみるととくに、最近、そのことを気にか
けている人がどんどん減っているように思
える。

序章 ほしいのは「ふつうの幸せ」
第1章 恋愛にすべてを捧げない
第2章 自慢・自己PRをしない
第3章 すぐに白黒つけない
第4章 老・病・死で落ち込まない
第5章 すぐに水に流さない
第6章 仕事に夢をもとめない
第7章 子どもにしがみつかない
第8章 お金にしがみつかない
第9章 生まれた意味を問わない
第10章 “勝間和代”を目指さない

香山リカ氏。1960年札幌市生まれ。東京医科
大学卒業。精神科医立教大学現代心理学部
映像身体学科教授。豊富な臨床経験を活かし、
現代人の心の問題のほか政治・社会批評、サ
ブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍
する。

昨30日夜、自民党は、衆院選惨敗に、ぼうぜ
ん自失の状態だという。選挙の結果に、評論
家やコメンテータが、したり顔で「予想以上
に厳しい」とのたまうが、あなた達プロでし
ょう。予想を外したことを恥じないとね。
(N21)