佐伯啓思『日本の行く末』を読む

『新潮４５』　2010年 01月号 ３３３号記念特大号より

＜yuka's fotolife red&green＞

    
佐伯敬思『日本の行く末「国民のための政治」という幻想』（１）
    
『新潮４５』通巻３３３号記念特別寄稿
『日本の行く末「国民のための政治」という幻想』
  佐伯啓思（さえき　けいし）京都大学大学院教授



    
鳩山政権よ、早急にビジョンを示せ
    政府が25日の臨時閣議で、10年度予算案
を決定したのを受けて、毎日新聞は26日
付けで、逸見義行経済部長が「日本経済
の将来像を示せ」と題して、解説記事を
載せています。解説の最後は、こう、締
められています。

―　昨年９月のリーマン・ショック以降、
大きな地殻変動が起こっている。日米欧
の経済は低迷を続けているのに、中国や
インドなどの新興国は急成長している。
日本は早晩、中国に国内総生産（ＧＤＰ）
で抜かれる。日本経済の進むべき道は何
か。鳩山政権は早急にビジョンを示すべ
きだ。―

また、同日の社説でも、「来年度予算案」
を取り上げ、『財源「綱渡り」の危うさ
‐中長期の戦略作り急げ』の表題で論評
しています。そして、最後に、こう、あ
ります。

―　今回の予算初編成を通して政権が何
を学んだかが肝心だ　来年の予算編成か
らは、「政権交代したばかりだから」の
言い訳は通用しない。鳩山政権は戦略室
の機能を強化し、直ちに戦略作りに着手
すべきだ。

いずれも、表現に差異はあっても、一言
でいえば、鳩山政権よ、早急に日本のあ
るべき将来を示せ、と訴えています。

これは、いま、多くの日本人が感じてい
ることだと思います。



    
国の将来像と国民の指針を示す
    『新潮４５』2010年 01月号の表紙のまん
中のに、大きな文字で『日本の行く末』
佐伯啓思とあります。

早速飛び付きました。それが『新潮４５』
2010年 01月号 ３３３号記念特大号を飾
る記念寄稿『日本の行く末「国民のため
の政治」という幻想』（佐伯啓思（さえ
き　けいし）京都大学大学院教授）とい
う論考です。

今日の日本が直面する危機に早くから警
鐘を鳴らし続けてきた思想家が問う、こ
の国のあるべき将来像と国民の指針を示
したものです。

読んでみて、今まで頭の中で浮遊してい
たバラバラの情報がいっぺんに整理され
て大変すっきりしました。年末を迎えて、
恰好の読み物でした。

この記事の構成は、

（１）すでに迷走の感、
（２）マニフェスト至上主義の滑稽さ、
（３）「国民」という「錦の御旗」、
（４）「疑似帝国主義」の様相、
（５）新たな「幸福」の形とは、

から成り、各説のどの一文を抜いても、
一つの完成された内容を備えていて、無
駄というものがぜんぜん見当たりません。
筆者の思考の成熟さを感じさせます。

素人の私が、概略を書くなど到底できま
せんが、私の胸にストーン落ちた箇所を
お伝えするなら罪にはならないでしょう。　



    
富と金銭の配分をめぐるゲームに没頭
    中でも、老齢を生きる身にあっても、大
いに指針を与えられたのは、次の文であ
ります。

（５）新たな「幸福」の形から。

われわれは、今、戦後日本が自明のもの
として追及してきた自由の無条件の拡大、
物的豊かさ、生活の便利さという価値を
疑い、新たな価値を模索する必要に迫ら
れているのではなかろうか。

戦後日本は、平和憲法のもとでもっぱら
経済成長を追い求め、物的財貨を積み上
げ、富と金銭の配分に最大限の関心を払
ってきた。

いわゆる吉田ドクトリンと言われるもの
だが、戦後日本政治における保守と革新
の対立とは、せんじつめれば、この同じ
土俵の上における富と金銭の配分をめぐ
るゲームにほかならなかった。

敗戦後の日本が、先進国に追いつき、経
済戦争においてアメリカと互角に肩を並
べたいという欲望やプライドを経済成長
のモチベーションとしてきたことは否定
できないであろう。

しかし、その目標が一応、達成された今
日、我が国の向きべき方向が見失われて
いる。方向を選択するには、新たな価値
がなければならない。

それは、これまでと異なった「幸福」の
形を模索する、ということなのである。

その日本が目指す将来像の五つの基軸を、
次回からにお伝えします。（続く）
(N138-10)






    
佐伯敬思『日本の行く末「国民のための政治」という幻想』……
    


Ref.

    
大転換―脱成長社会へ (単行本)
    
大転換―脱成長社会へ
 





    
新潮45 2010年 01月号
    
新潮45 2010年 01月号 [雑誌]
 



    
≫平成万葉集≪
    


    
百年の店を閉ぢたる張り紙が生家を動より静に誘ふ
    高野伊津子（73歳）千葉県

平成万葉集




    
☆ヨーロッパ古城巡り☆ スペイン
    Castillo de Garcimuñoz, Cuenca, Castile-La Mancha, Spain.
Castillo de Garcimuñoz - Wikipedia
Ref.
セルバンテスの芸術 (単行本) 
セルバンテスの芸術



    




    
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哲学(philosophy n.)：
    

    
どこからともなく始まり、どこへ行き着くということもない、
    


    
多くの道からなる一つのルート。
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