『縦に書け!―横書きが日本人を壊している』(16)
〈著者〉石川 九楊 (いしかわ きゅうよう)
・「肉」がないチャットやメールの脅威
・肉声なら「バカ野郎」にも親しみを…
・大学教授でさえ抑制がきかなくなるメール
『縦に書け!―横書きが日本人を壊している』(16)
きょうの見出し“「肉」がないチャット
やメールの脅威”の 「肉」とは、肉声、
肉顔、肉体を直喩し、赤い血液の流れて
いる生身の人間を指しています。
「肉」がないチャットやメールとは、人
間の抜け殻が、ミュートで口をパクパク
させているようなものです。ゾンビども
の会話と言ってもよいでしょう。だから、
はなはだ危険なのです。
「知らねいヤツは信用できねェ」とマフ
ィアのボスが手下に、吐き捨てるように
言うシーンの映画(なんの映画か思い出
せないのはシマリがありませんが…)が
ありました。
この台詞は人間関係の基本を伝えていま
す。通り一遍の人間とは、ギャングでも
(or だからこそ)仕事はできないとい
うことです。
一時、異業種交流会というが流行りまし
たが、他人さまと会場で名詞を交換した
くらいで、本業に役立つ人間関係が成立
するかどうか大いに疑問です。ほとんど、
気休めに過ぎないでしょう。
また、脳細胞の活性化の実験をNHKの
番組で見たことがあります。
被実験者の女性アナウンサーが、携帯ゲ
ーム機で やったこともない難易度の高
い脱出ゲームかなんかに挑戦している時
間帯より、生身の人間と、対面で話して
いる時間帯の方が、格段に、脳細胞が活
性化したのです。
いま、現代人は、大切なものを 失いつ
つあります。まさに、病膏盲に入る、状
態と言えます。
「肉」がないチャットやメールの脅威
(昨日より続く)
「
チャットも、また人間相互の不可思議な
関係の上に成り立っています。
お互いの名前や年齢も知らないばかりか、
場合によっては性別すら定かではないと
いう場合でのコミュニケーションである
にもかかわらず、錯覚的に奇妙な密着感
が生じたり、逆に激しい罵倒(ばとう)の
投げつけ合いに発展したりということが
起こります。
このところインターネットで知り合った
だけの、いわば見知らぬもの同士が、集
団で自殺するというニュースが新聞やテ
レビをにぎわしていますが、これもイン
ターネットを通じた遠近感と距離感のな
いコミュニケーションの異常さを象徴し
ています。
佐世保 の事件の加害者と被害者二人の少
女は、メールだけでなく、インターネッ
トのチャットや
掲示 板を通じても連絡を
とり合っていたようです。日々、学校で
顔を合わせているにもかかわらず。
チャットや
掲示 板という、
話し言葉 のよ
うでも書き言葉のようでもあり、またそ
のどちらでもない、空想と妄想を基盤と
するバーチャル(仮想的)なコミュニケ
ーションが事件のベースにあったことは
間違いありません。
もしも二人が学校でじかに会うだけであ
ったら、きっと生涯にわたるよき友であ
ったに違いありません。
札幌の青年が、
赤穂市 の少女に首輪をつ
けて東京で監禁した猟奇事件こそ、遠近
感を喪失し、妄想を拡大した典型的な現
代社会の事件です。
肉声なら「バカ野郎」にも親しみを…
しかも、言葉は必ず反対の意味をその言
葉の中に孕(はら)み、矛盾を伴うこと
によって存在します。
このため、しばしば「肉」の表現が、言
葉の真の意味を明らかにすることがあり
ます。たとえば「好き」と言う場合でも、
放り投げるように言えば、それは嫌いと
いう逆の意味に転じます。
あるいは、「オイ」と一言呼んでも、い
ろいろな意味合いがあります。褒める場
合も、叱る場合も、単に呼ぶだけの場合
もあります。同じことが肉筆で書いた文
字の中にも当然あります。
ところがチャットには、形態としては、
会話であるにもかかわらず、こうした
「肉」の部分がありません。読む側は、
チャットの文に妄想的に「肉」をつけて
声として聞くことになるわけで、そこか
ら誤解と齟ごが生じてきます。
たとえば、「このバカ野郎」と言う場合
に、肉声なら、親しみを込めてからかう
ようなニュアンスを表わすこともできま
す。しかし、チャットで同じ文言を送っ
た場合、読んだ側はストレートな悪罵
(あくば)と受けとってしまいます。
大学教授でさえ抑制がきかなくなるメール
佐世保 の事件の場合も、こうした誤解や
齟ごが挟入(きょうにゅう)して、それ
が妄想的に増幅していったことが十分に
考えられます。
余談ですが、ある知り合いの学者による
と、大学の教授会が終わった後には、大
量のメールのやりとりが行われ、同じ意
見の者は盛り上がり、反対意見を持つ人
たちへの攻撃は凄まじいそうです。
そんなに盛り上がるなら、教授会でやれ
ばよさそうなものですが、実際の場では
そこまでできない。
相手の顔をみ見てしゃべっていたら、あ
る程度の抑制と自制そして修正が働き、
どんなに腹が立っても、やりとりの中で
気分が和んできたりすることもあるわけ
です。
ところがメールやチャットとなると、相
手の肉顔も肉声もなく、すべてストレー
トに出てきます。大人の大学教授という
人たちでさえ、抑制がきかなくなるので
すから、子どもなら、なおさらのことで
しょう。
」
(続く)
(N308-65)
(N309-66休み)〜(N311-68休み)
『縦に書け!―横書きが日本人を壊している』(16)
石川 九楊 さん:
昭和二十年、
福井県 に生まれ。
京都大学 法学部を卒業。
書家・書道史家。
京都精華大学 教授・同大学表現研究
機構文字文明研究所所長。平成三年『書の終焉 近代
書史論』で
サントリー学芸賞 、十四年『日本書史』で
毎日出版文化賞 、二十一年『近代書史』で
大佛次郎賞
を受賞。作品集に、『盃千文字』『
歎異抄 ―その二十
の形象喩』、主著に『中国書史』『
二重言語 国家・日
本』『一日一書』『日本語の手さわり』など。
縦に書け!―横書きが日本人を壊している [単行本]
<目次>
第1章:言葉が力を失った社会
・
酒鬼薔薇 少年から
長崎県 佐世保 小六殺人まで
・神と悪魔の間で分裂している人間の精
・価値の
不定 、浮動化
ほか
第2章:「日本」とは「日本語」のことである
・日本語は世界でも特異な言語である
・漢語(漢字)と和語(仮名)の
二重言語 国家
・日本語は中国の植民地語
ほか
第3章:「縦書き」こそが精神を救う
・縦書きをなくそうとした占領軍
・丸文字とシャープ文字
・混乱を極める封筒の表書き
ほか
以上
犯行を行った加害女児と被害者は、お互いにコミュニ
ティー サイト
の提供するウェブサイトを運営し、パソコンでチャットや、
掲示 板
に書き込みをする仲であった。犯行の動機について、加害女児はウ
ェブサイト上の
掲示 板などに身体的特徴を中傷する内容を書かれた
ことを挙げている。しかし、加害女児を良く知る第
三者 は、客観的
に言ってそのような身体的特徴があるなどとは全く感じられない、
認められないと話している。
佐世保小6女児同級生殺害事件 - Wikipedia
追跡!「佐世保 小六女児同級生殺害事件」 [単行本]
書家101 [単行本]
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3645 W Starr Pass Blvd
Tucson, AZ 85745
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